循環型の料理を目指してドイツへ〜フードコーディネーター中山咲子さん【後編】

フードコーディネーターになるまでの経緯について話してもらったインタビュー前編に続いて、後半ではフードロスの出ない循環型社会に適した料理の提供や“バイオダイナミズム農法”に興味を持った中山咲子さんがドイツに移住するまでの話を聞きました! 

「前編」はこちら

――『はてなブログ』のまかないを始め、ケータリングやカフェ経営など、さまざまな形で食事を提供されてきたわけですが、作る上ではどんなことを意識されていたんですか?

中山 なるべく食材の無駄が出ないようには意識してました。最初にアメリカへ留学した時に資本主義ならではの出来事があって……向こうはウォルマートとかコストコとか超大きなスーパーがあちこちにあって、サンクスギビングの時期にはターキーの丸焼き用のお肉がたくさん売り出されていたんですけど、終わった後も半額とかになってずっと売られていて。ただ、半額になっても売れないものはおそらく破棄するしかないじゃないですか? その量が半端なくて、そこにショックを受けて“どうなってるんだろう、世の中は”と思ったというか。だから、自分が飲食業に携わるんだったら循環できる仕組みの中でというか、必要な材料だけ購入して、それを必要な分だけ提供して、みたいなことができたらいいなと思っていたんです。

――『はてなブログ』やカフェ経営の際には、京都の大原まで材料を毎朝仕入れに行かれていたそうですね?

中山 そうですね。ただ、『はてなブログ』でも予算の中でやりくりしながら賄いを提供していたんですけど、会社が大きくなって人数が多くなればなるほど、急遽打ち合わせが入ってご飯は必要なくなるみたいなことも当然あって。会社の規模が小さい頃は合宿感があって、一つの食卓をみんなで囲ってご飯を食べるみたいなことが日常茶飯事だったんですけど、だんだんそういう機会も減り、食材のロスも出るようになって。もちろんみんな、会社にご飯を食べに来ているわけじゃないから仕方のないことというのは分かりつつ、ちょっと寂しいなと。当時の私の理想が高かったというのもあると思うんですけどね。スーパーで小分けで買うより、そういう大原の市場で測り売りで買ってゴミが出ないように考えたり、地元の人から野菜を買ったり、できる範囲でやっていて。当時は若かったら楽しかったけど、体力的なことを考えてもそういうことをずっと続けられるのかとか、色々考えるようになる中で、ドイツのバイオダイナミズム農法に興味を持ち始めたんたのです。

――バイオダイナミズム農法は、化学肥料や農薬を使わず、太陽の動きや月の満ち欠けなど、地球と植物のリズムに合わせて作物を栽培する方法ですよね?

中山 そうです。たまたま図書館でその農法に関する本を読む機会があって、“こういうやり方があるのか、すごいなあ。見てみたいな”と思うようになって。それまで一度もドイツに興味を持ったことはなかったんですけど、気になり始めたらすぐに行動せずにはいられない性格ということもあって(笑)、たまたまドイツ人の知り合いがいたということもあったし、最初は2ヶ月だけ試しに行ってみたんですよ。

――おお、すごい行動力ですね。実際にドイツに行ってみてどうでしたか?

中山 私が行ったのが9、10月ぐらいで、ドイツってその時期すごく綺麗なんですよ。すごく楽しかったし。で、その頃がちょうどカフェ経営の時に借りていた600万円くらいの借金も全部返したぐらいのタイミングで、“これからお店を続けるのか、ケータリングに専念するのか、新しい世界じゃないけどドイツに行くのか”みたいなことをすごく考えて、結局ドイツに行くことにしました。

――ドイツのどういうところに惹かれたんですか?

中山 ドイツ、すごい好きなんですよね。今は旦那さんの仕事の都合でアメリカのシアトルにいるんですけど、アメリカに来てから改めてドイツが好きだったことにも気づいて……なんていうか、ドイツ人の自然に対する考え方が心地いいというか。食べ物とかはヨーロッパだとイタリアやフランス、スペインの方が美味しいし、だからいろんな人から“なんでドイツなの?”とすごい聞かれるんですけど、ドイツの“足るを知っている”みたいな感覚が好きなのかもなと。

――“知足”ということですか。でもそれは食べ物を無駄にしたくないという中山さんの考え方とピッタリはまりますもんね。

中山 そうなんです。特に食べ物に対して足るを知ってる感じがするんですよね。贅沢というよりは質素で。パンとか煮込み料理も、色合いも味付けもすべてわりと質素で。ソーセージがやっぱり有名ではありつつも、基本的にはベージュみたいな。おそらく土地的にはそんなに恵まれてなくて、芋とか小麦くらいしか収穫できないからって理由が下地にあると思うんですけど、でもなんかそのパンとかもすごくこだわっていて栄養価も高くて。そういう考え方がわりと好きなんですよね。

――実際にドイツで暮らしてみて、どうだったんですか?

中山 最初の3年はドイツ語をとにかく勉強することに追われつつ、農園で1週間ほど職業訓練をやったりしていて……私が行った農園が少し宗教感が強いところで、キリスト教の文化を感じる瞬間が多かったんですね。“ワインはキリストの血だ”みたいな話をされて、なるほどと思いつつ、そこまで入り込めない感じがあったので、そこでは働かずに結局、デュッセルドルフで料理教室の手伝いをする生活をしていて、ちょっとドイツ語も慣れしてきたって時に、ベルリンにある日本食レストランの人から“カフェを開きたいから、そこの立ち上げメンバーで入ってほしい”と頼まれてベルリンに移住したんですよ。ところが、そのカフェの話が流れてしまって就労ビザをもらう予定だったのがもらえなくなっちゃったので、結局フリーランスビザを獲得して生活してたらコロナ禍になって……だから、ドイツではわりとサバイブしながら生活していたんですよね(笑)。そんな中で、おつきあいしていたチリ人の男性と結婚することになり、アメリカに移住して。今はビザの関係もあって専業主婦として暮らしているんですけど、旦那さんとも“やっぱりドイツの暮らしがよかったね”という話をすることが多いんです。循環型の暮らしの中で、私も“足るを知る”ような感覚を持ちながら、料理を続けていけたらいいなと思っているんですよ。

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